序章 受験者
・・・・・パシャ・・・・パシャ・・・
誰もが外出を諦める大雨の中で、スーツ姿の男が歩いている。その幼さの残る容貌から、おそらく少年と言った方がいいだろう。彼の髪の毛はまるでこの大雨で色素が流されたかのような銀髪で、周囲の目を惹いている。しかし、当の本人はそれに気づかないのか、それとも気にしていないのか、ゆっくりとした足取りで歩く。
傘を持つ手とは反対の手に、鞄を持っている。大切な物なのか、少年は自分のスーツが濡れるのも顧みず、鞄を雨から守っている。
少年の表情は暗い。まるで歩いているだけの死体の様な表情である。一ヶ月前までは彼も普通の若者のように笑っていた。今、彼は必死に逃げようとしていた。自分から表情を奪いつつある時間から、そして自らが所属する組織から。彼は、「逃亡者」なのだ。