9月23日(夜木)

 見た限りどうやら彼等は元チンピラ、しかも集団戦闘も覚えてないらしい。訓練された者の機敏さが動きの中に見受けられない。僕にとっては一番やりやすい種類だ。元々個人で動くのが身に染みついているのに、へたに連携しようとするから逆に全体の動きが乱れる。
 僕は首の骨をコキコキと鳴らし、踏ん張っていた両手足の力を抜く。狭い通路の上でクモの巣のように張り付いていた僕は下、ちょうど彼等の背後に飛び降りる。 まずは着地と同時に目の前の試験生の後頭部に手刀、男は気を失って倒れこむ。前の二人はようやく僕の位置に気づき、反撃しようとこちらに振り向く。
「遅いんだよ。」
僕はそう呟いた頃には二人目には手刀が決まり、倒れこんでいる。一瞬で最後の一人になった茶髪の男が、今更になってハンドガンを取り出す。圧倒的なリーチを持つそれを手にして少し安心したのか、
「てめぇ、ふざけんじゃねぇ・・・・」
と、脅しを口にする。しかし彼の表情には全く余裕はない。内心ではかなり焦っているのだろう。滑稽だね。
パンパンッ
茶髪が二発撃ってきた。そのうち一発が僕の髪を数本、焼き切っていく。彼にも意外と根性はあるらしい。腐っても試験生、という事か。
 僕が弾丸を避けたことに驚いたらしく、茶髪は撃った姿勢のまま固まっている。
 別に僕は弾丸よりも早く動いたわけでも、ましてや超能力も持っているわけでもない。問題があるとすれば、茶髪のほうだ。撃つ直前に体が強張り、腕が一度伸びきる。そんな大きなモーションだと、一般人にでも避けられる。
そんな事とは知らず、彼は僕に向かって乱射しはじめる。僕は彼の持つ銃の銃口を見て弾道を予測し、その道から体をのける。簡単なことだ。
弾丸の雨をかいくぐり、茶髪の目の前に立つ。茶髪は冷や汗を流しながら、僕の顔に銃を向ける。おそらく茶髪は勝ったと思ったろう。しかし、彼の銃口が火を噴くことは無かった。
カチッ
弾切れだ。目の前の存在を消そうと必死だったため、スライドが後ろに下がったままという事に気づかなかったらしい。
「ヒッ!!」
茶髪が情けない声をあげる。僕はさっきの二人同様、彼の首筋に手刀を叩き込む。彼は白目をむき、倒れこむ。
・・・・・だめだな。なんど戦っても、やっぱり「溺れる」。自分の力に。才能に。自分が怖い。どれだけ傷つけたくなくても、戦っている間に少しずつ抑制が効かなくなる。今のだって、戦わずに逃げることだってできたはずだった。これでも殺さなかっただけましな方なんだ。何度もこうやって落ち込んだことがある。そして僕は今日も同じ言葉を吐く
「・・・僕は・・・殺人鬼なんだろうか・・・」
 そうやって一人で佇んでいる時、僕の体を電流が走った。僕は隅のほうに隠していたスーパーの荷物を置き去りにして、「ゲイツ」のところに走り出す。
 いままで全く来なかった試験生が突然僕を待ち伏せしていた。つまり、少なくとも僕の存在、最悪「ゲイツ」の場所まで知られている可能性もある。こんな所で感傷に浸っている時間などは無いのだ。
「間に合え!頼む!」
そう言っている瞬間に、「ゲイツ」の中にある隠し通路の中では血の海が形成されていることを僕は知らなかった。気づいたその時点で、もう手遅れだったんだ。全て無駄だったんだ。